堀と壁に囲まれた行動展示の広い日向には、ゴリラの姿はなかった。
10分ほど待ったが、けっきょく一頭も姿は見せなかった。
「イケメンのシャバーニ君、いないね〜。」と落胆の声を発してその場を離れる人が多かった。
待てよ!・・・っと思った。
カメラの設定を変えて飼育棟からのトンネルの奥の暗闇を望遠レンズで覗いてみた。
いたっ!
薄暗いトンネルの奥に黒い巨大な塊がデンと座り、こちらを睨んでいる。肉眼では見えない。
シャバーニだ。目が合った。
霊長類最強の巨大ゴリラは、群れのボスとして暗闇から堀の向こうの人間を監視しているようだった。
キメ顔っていうか、鋭い目つきでこちらを凝視している。
なるほど、こいつはイケメンだ。
トンネルの四角いフレームの向こうに、小さなサルたちがたくさんウロチョロしている。
それとも・・・ヤツが見ていたのは、オレたち小さなサルたちのウロチョロではなく、オレたちの向こうに広がる東山丘陵の緑の森とその上の蒼い空なのだろうか。
