前方30m、林道から雪原に腰の曲がった爺さんが、現れた。
「こんにちは!」と大きな声で挨拶した。
爺さんは一瞬腰を伸ばし、やがて進路をボクの方に変え、新雪を踏み踏み、ゆっくり向かってくる。
ボクもルートを変えて雪原の中、爺さんの方に向かった。
よく使い込まれたフランス製ザック MILLETに和カンジキを括りつけている。
ボクらは雪原のなかで、15分程度話し込んだ。楽しかった。
75歳、登山暦50年という爺さんは浜松からひとりで来たという。
ボクが、還暦ですというと、若いねと、返された。
帯状疱疹を患って具合が悪くなったという。腰が曲がり歩幅は狭く緩慢だが、歩きに無駄がない。かっこよく、素敵だと思った。
爺さん、ボクと分かれて雪原を登っていった。
美しい絵なので、ボクはしばらく爺さんのうしろ姿を眺めていた。
かく、ありたいものだ。
