

高層マンションの火災は、怖い。
数時間前の深夜、けたたましい消防車やパトカーのサイレンの音が鳴り響いた。
テラスに出て階下を見下ろすと、すでに消防車が何台も停車してホースが鋪道に伸ばされていた。
焦げ臭い匂いがした。
非常放送でエレベーターが使用できる旨が伝えられた。フロアの廊下に出ると火事は、上の階らしいという人がいた。
「またか!」
というのも、1ヶ月前に同じフロアの2軒隣りで出火して、老夫婦が亡くなられたばかりなのである。その記憶がいまだに生々しく残っていて、ボクはそのショックをすくなからずいまだに引きずっていた。
その時の火事は、朝方で、19台の消防車が出動してたいへんだった。
亡くなられたのは90代の老夫婦で、避難誘導の全館放送があったにもかかわらず姿が見えなかった。
エレベータ脇の火災警報パネル装置をみると、火元は同じフロアの老夫婦のところでが赤く点灯していた。
ボクは、引き返して火元の老夫婦の玄関チャイムを鳴らした。ドアをどんどん叩いて呼びかけても返事がない。
大声でなんど呼びかけたが反応がない。ドアは内側から施錠されていた。
そのうち、煙がドアの隙間から漏れてきた。焦げ臭い匂いはすでに充満しかけていた。
ボクも限界だった。避難誘導の非常放送から10分くらいしてやっと、常駐の保安要員の担当者が階下から上がってきた。
ボクは促されて階下に避難することにした。
老夫婦がお亡くなりになったのを知ったのは、数時間後のことだった。
今回も、同じフロアの90代のお婆さんを連れ出して1階に避難した。
すでに、相当数の消防士が1階にいた。
住人の多くが、「焦げ臭い匂いがした」と消防や警察の聞き取りに答えていたようで、ボクも問われたので、そう答えた。
消防士によると、「焦げ臭い匂いがする。」「火事のようだ」と通報があったそうだ。
火事との通報があり出動したが、火事ではないとのことだった。
ボクも他の住人と同様、焦げた匂いをテラスで確認している。
非常ベルは鳴っていないので、テラスから階下を見下ろしたが、消防車は見えるが火事はどこかわからなかった。
消防車の写真を撮る余裕があった。
そのあとしばらくして、全館放送で避難ルートは非常階段のほか、まだ2機のエレベータが使用可能だと知った。
避難誘導の放送があった時にはすでに、10台以上の消防車が集結し、消防隊がマンションに入っていた。
消防士に部屋に同行させていただけないかと要請された。複数の住人から報告された「焦げ臭い匂い」を現認したいようだ。ボクは、消防士を伴って部屋に戻った。テラスに出たが。焦げ臭い匂いはもうしなかった。
住人の多くが、口々に口にした「焦げ臭い匂い」はなんだったんだろう。また、誰が通報したんだろう。消防士にたづねると通報は、メールでしたと教えてくれた。メールで通報できるんだとその時初めて知った。
深夜〇時すぎにボクの部屋にやってきた重装備の消防士さんの写真を、携帯電話で撮らせていただいたのは言うまでもない。


