どんと腰を据えた爆弾低圧の影響で、濃尾平野に強烈な寒気が流れ込んできた。
街の雪景色を見ていたら、ちょうど1年目の中央アルプスの吹雪の記憶が蘇ってきた。

2013年12月19日、ボクは冬の中央アルプス木曽駒ケ岳にチャレンジした。
千畳敷からカールの壁を北側へ登って主稜線に出たところが乗越浄土、標高2870mだ。
ボクは最大の難所であるカール北壁の乗越浄土の10mほど手前で、パーティを離脱した。
吹雪の千畳敷をフラフラの状態で1時間半ほどかかって、ひとり戻った。
下りはいっそう吹雪いて視界10mから5m。
自分たちのつけたトレースは吹雪にかき消されてルートがわからなくなる。
ときおりGPSを見ながらやすみ休み中央アルプスの風速10mを超える吹雪のなかを、ひとりの敗退者として下山した苦い記憶。
写真は吹雪の急斜面にかかる手前の雪原のアプローチで、まだこの時は写真を撮る余裕があった。
正面の雪の壁をあと10mよじ登れば超えられる急斜面でボクは敗れ、離脱した悔しい記憶が蘇った。
進むことを放棄して離脱敗退することは、ボクの60年の人生ではじめてだった。
自分だけ逃げたことなんてなかった。

ボク以外20代から40代のパーティで、体力のない最高齢のボクの遅いペースに合わせると、夜までに木曽駒ケ岳頂上からパーティが戻ってこれなくなる。
かといって胸突き八丁で胸まで雪に埋まる雪の壁に、ボクはすっかり体力を奪われていた。
ピッケルを横にして先行の拓いたルートを辿ろうとしても、ゴーグルが吹雪で曇り、先行者が踏み固めた急斜面のルートを踏み外して壊してしまう。寒くなんかない、汗だくだ。
この汗が冷えてくると凍える。
ボクはひとり離脱して、下山する宣言をした。悔しかったが、選択肢はなかった。
もう、山も自転車も単独行だと、還暦を超えたボクは決めた。
ただし、単独行の場合、装備はぐんと増えて重くなる。ピークハントにはこだわらない。