梅雨の本降りの雨は、風はなくとも勢いがあって容赦がない。
幼い頃の梅雨、道端の紫陽花の葉にはカタツムリが必ず這っていたものだが、ちかごろは「でんでん虫」をとんと見かけなくなってしまった。
未舗装の道にはいたるところに水溜りがあって、長靴を履いたボクは、それこそ北原白秋の「あめふり」の世界で、ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン のフレーズをリフレインしながら遊んだものだった。
遠くの林の極にクリスチャンの墓地があって、真っ白で真新しい木の十字架が雨にかすんで見えていた。
あれは、まぎれもなくその春に夭折したボクの幼い仲間の墓標であり、雨の中の真新しい白い十字架の「記憶」は幼いボクに刻まれた梅雨の篠突く雨の哀しく不安な印象風景として、いまでも鮮明に残っている。
